オリジナルの猫用グッズで、猫界の注目を集めるD.I.Y レーベル「41世紀」。主宰者・倉橋さんは、今冬猫とともに家族で故郷にUターンを決意。東京暮らしの集大成として完成させたアルバムを通じて、さまざまな思い出話とともに嬉しい副産物が生まれました。
東京暮らしを支えた女たち
ー2匹を飼い始めたいきさつを教えてください。
知り合いが拾ってきた猫を一時預かって、手放す時には泣いて嫌がるような子供でした。実家では飼わせてもらえなかったので、上京して就職した後、長年の夢が叶ってメスの保護猫を迎えることに。レーベルを立ち上げる前の2013年のことです。「パッチ」と名付けました。家を空けた後のパッチの甘えぶりを見て、もう1匹迎え入れることを決め、翌年同じメスの「ドッチ」を飼いはじめました。
ドッチ
「41世紀」では、猫用テントも定番商品として製作されていますね。
もともとは、ミシンの練習を兼ねてトートバッグなどを見様見真似で作っていました。商品のラインナップを増やす目的で、せっかくなら猫の家を作ろうとなり、いざサンプルが出来上がるとすぐに使ってくれたんです。そこから改良を重ねて、「#catstudyhouse」として販売に至りました。そのほか、ハンカチの残反をリユースした猫じゃらしも作っています。猫を飼っているからこそ生まれたプロダクトですね。
パッチ
今回作成したアルバムは、どんな内容になりました?
自宅に仕事場があり、基本ずっと家でいるなかで猫を撮っているので、図らずもわが家の歴史になりました。引っ越したての空っぽの部屋から、モノが増えていって、最近は容量の限界を迎えた様子の移ろいが見えますね。娘の誕生や成長といった家族の姿、一方で独立後の仕事内容の記録にもなっています。今年の冬を迎える前に、故郷である北海道・旭川にUターンするので、ちょうど僕の「東京史」といえるものになりました。アルバムのタイトルは、『大東京』です(笑)。
ー特に印象深い写真はありますか?
うん、、、「チッチ」の写真ですかね。この家で一時預かって、その後僕の実家に引き取られて亡くなった猫です。もともとは友人が小さい野良猫を飼いはじめ、ある時に病院に連れて行くと15歳の老猫だと判明して。初めてのペットが高齢だとしんどいだろうということで、うちで引き取ったんですね。子猫に見間違えるほど小さい体ひとつで、よく生き抜いた。体が強いからじゃないんですよね、厳しい環境のなかで、人に懐くことを身につけたからなんです。たくさん苦労があったでしょうが、余生は両親に可愛がられて、のんびり過ごすことができてよかったと思います。
「#catstudyhouse」とドッチ
チッチ
アルバムは、想いを引き継ぐ装置
ーアルバムを作って、なにか気づきはありましたか?
普段見えないものが、浮かび上がることでしょうか。例えば、猫2匹と娘の関係性。娘は、猫が鳴いていると甘えさせてあげるんです。やれやれという感じで。パッチは長女気質で慎重派。ドッチは次女気質で内弁慶。猫同士の上下関係もあって、娘はなんとなくそれを分かってバランスを取りながら世話をしている。彼女の猫に対する眼差しやふれ合いをプリントで見ると、お母さん気質な性格が現れていますね。
ー家族とはどんなお話をされましたか?
子供が生まれる前の写真もあるので、当時の話をたくさんしました。先ほどのチッチの話も。妻の妊娠が分かった頃、チッチは実家に行ってしまったので、娘にとって親しみが薄い存在でした。それゆえ猫3匹が揃って家のなかにいる写真を見つけると、すごく興奮していましたね。「パッチとドッチにいじめられていたんだよ」とか「お父さんの仕事場にずっといたんだよ」とか、彼女が知らない昔話しながら当時の様子を伝えました。スマホでも昔の写真を見ることがありますが、アルバムになると見え方や捉え方が全く違う。1枚の写真から会話が生まれ、共有し、想いを引き継ぐことができる。カタチにする大切さを感じましたね。デジタルだと見なくなって埋もれてしまいますし。写真データが入っている古いハードディスクが読み込めないこともあったので、デジタルで保存しておくリスクもありますしね。やはり、写真はプリントした方がいいと実感しました。
ー初めてのアルバムづくりはどうでしたか?
写真をざっくりまとめてアプリに入れてしまえば、自動でほとんどやってくれるので思ったよりも手間や時間がかかりませんでした。レイアウトは種類が多くて選べるし、写真の縦横の比率の調整もしてくれるのでスムーズでした。印画紙ならではの色合いが綺麗で、アルバムも厚いのに開きやすいし。最初は腰が重く感じましたが、やり始め出すと家族とのコミュニケーションが活発になったし、出来上がれば振り返りにもなる。ページ数も選べるので、ライトなものから手始めに作ってみるのも良いと思います。
ー次はどんなアルバムを作りたいですか?
今回は「猫」で作りましたが、今度は別テーマで作ってみるのも面白そうです。娘の成長を記録したアルバムでしょうか。今までフィルムで撮り溜めた写真も結局SNSにアップするくらいでしか形にできていないので、小学校の入学のタイミングで作ろうと思います。
Profile
倉橋孝明(くらはし・たかあき)
D.I.Yレーベル「41世紀」主宰。オリジナルの鞄や椅子などのほか、猫用テントをハンドメイドで製作。また、オーダーメイドの家具修理も請け負う。